131.スプライトの夜(冬季雷に伴うスプライト) (1)スプライト(Sprite) 太平洋側の三重県に住む私たちにはあまりなじみのない冬季雷ですが、実は日本で発生する雷は、 夏季よりも冬季の方が多いのです。西高東低の気圧配置に伴って吹く大陸の冷たく乾いた季節風が、 日本海を通るときに顕熱・潜熱の供給を受けて気団変質し、日本海側で積乱雲となって冬季雷と大 量の降雪をもたらします。このとき、三重県上空が晴れていれば、これらの上空の放電現象が観測 可能となります。 図1は、2005年1月12日、桑名市から北の空仰角35°を高感度モノクロビデオ カメラ+広角レンズで撮影した映像の1フレームです。前のフレーム(図2)にはほとんど何も映っ ておらず、次のフレーム(図3)には一部の名残が見えます。 遠方の雷(稲光)に伴ってその上空 にごく短い時間(約1/100秒)だけ発光するふしぎな光の群れ、これが高々度放電現象で、中間圏に 出現している赤い放電発光を「スプライト」といいます。
(2)スプライトの分類 スプライトのタイプには大きく分けて「キャロット・スプライト」と「カラム状スプライト」の 2つがあります。図1で周辺にたくさん見られる、にんじん型の光が「キャロット・スプライト」 です。一方、図1で中央にある太い2つの光は、典型的なものではないが「カラム状スプライト」 としてよいと考えます。両者の本質的な違いは、キャロット・スプライトの発光が中央から上下両 方向に進行するのに対し、カラム状スプライトの発光は上端から下方に進行することです。また、 カラム状スプライトは原因となる雷発光と同時に発生し、キャロット・スプライトはわずかに遅れ て発生しますが、これらは通常のカメラでは解析できません。
(3)2005年に三重県桑名市と大阪市から同時観測したスプライト 2005年1月11/12日に19例、2月1/2日に3例のスプライト映像や解析した結果からその一部を以下 に掲載します。 <観測機器> カメラ : WATEC社 高感度モノクロCCDカメラ レンズ : CBC 6mmF0.8(写野の対角線68.5°) <撮影地> 三重県桑名市(北緯35°03.7’ 東経136°39.5’) 2005年1月11/12日に撮影した19例のうち6例が、大阪市から藤原康徳さんによって撮影されてい たため、1例をのぞいて出現位置を特定することができました。また、中部電力雷情報のWebページ (http://www.chuden.co.jp/kisyo/)に掲載される雷雲レーダー(3分ごとに更新)の強度マップと 比較しました。
(4)六角形構造のスプライト 図1の2005年1月12日01時51分54秒のスプライトは中央に2つのコラム状スプライト、それを六角 形に取り囲むように2個でペアをなしたキャロット・スプライト、さらにその周囲にペアの傾向を 持ったキャロット・スプライトが存在します(図5)。これは2点同時観測になりませんでしたが、 出現下端高度を70kmと仮定するなどして、出現位置を推測してみました。六角形の直径は約70kmに も及び、さらに最周辺部のキャロット・スプライトまで入れると約90kmのサイズです。このような 正六角形に近い六角形構造とキャロット・スプライトがペアになる性質がこれほど顕著に見られる 映像は、今までに例がありません。
(5)発光継続時間の長いスプライト 図8は、2005年2月1日23時52分41秒に出現したスプライトをフレームごとに見たものですが、最も 明るいカラム状スプライトが1フレームにしか見られないのに対し、その左上の3つの、輝点からな るスプライトは、複数のフレームに継続して見られます。このように、輝点状のスプライトは異常に 長い発光継続時間を持つようです。
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