662.人力車 − 口を使って自動車を動かす人 −

 重いものを持ち上げる・引っ張るなどの力自慢が、テレビなどに登場することが
あります。その一つに「口にくわえたロープで車を引っ張る」というのがあります。
 さて、それは本当に「超人的な」技なんでしょうか?

 研修会に参加した教員でやってみました。
(けがをしないためにたくさんの留意事項があります。そのためにも映像を作りま
 したので、これを学習に使ってください。)
 
力の測定値無しのビデオを見る
力の測定値付きビデオを見る

1.(下図)質量の違い(乗用車は1000〜1500kg)と、それぞれにかかる
重力が気になります。でもこの二つの重力はロープを引っ張っていませ
んね。だから、この大小はどちらに動くかには直接の関係は無いことに
なります。




2.(下図)車に対して水平方向に働く力だけを考えてみます。
車のタイヤのころがり摩擦を超える力 T で引けば、車には右向きの加速度が
生まれます。10〜20kgwの力で引けば動き出すのが、ビデオから分かります。
重力の大きさ1000〜1500kgwに対して、これはずいぶん小さな力です。
 



3.人が水平面に立っている場合、どんなに力持ちでも最大摩擦力 F 以上の
力で引っ張ることは出来ません。最大摩擦力を超える力 T で引けば、その反
作用としての −T によって人が引きずられてしまうからです。
 



4.次に、人と地面の間の最大摩擦力の大きさを考えます。

(最大摩擦力)=(静止摩擦係数)×(垂直抗力)
    F   =   μ     ×  N

        ここで一般に μ < 1
        また、水平面で N は、人に働く重力と同じ。

従って、最大摩擦力の大きさは人の体重を超えないことになります。
ビデオで見たように、車を引く力は10〜20kgw程度です。
そのくらいの力なら、ロープを口でくわえて引くことが出来るわけです。

*飛行機や沢山の人が乗ったトラックであっても、人間が引いている力は、人間と
地面との最大摩擦力を超えてはいないのです。



5.実験するときの注意点
1)ロープは左右均等に奥歯でくわえる。前歯は弱い。ロープの力が前歯にかからな
ように注意。
2)車は、でこぼこのない水平面に置く。
3)タイヤは規定の空気圧に調整しておく。空気が減っていると引くのが大変重くな
る事がある。自分で出来ないときはガソリンスタンドで調整してもらう。
4)安全のために他の職員に運転席に乗ってもらい、ブレーキ操作などしてもらうと
良い。エンジンはかけず、ギアはニュートラルにしておく。
5)いきなり力を入れて引くと、車の慣性で大きな力が加わり、歯に負担がかかる。
「じわーっ」と引くこと。