1017.紀和鉱山資料館と紀州鉱山跡

(1)紀州鉱山とは

 紀和鉱山付近の地質は、図1のように四万十帯(日高川層群と音無川層群)と熊野層群が
不整合で接しており、さらにそこに熊野酸性岩類が貫入しているというものです。
  四万十帯とは、海洋地殻の上に積もった深海底堆積物のチャートや珪質頁岩などと、海溝
に溜まった土砂(タービライト)などがプレートの運動によって大陸側に押し付けられ、は
ぎ取られる(付加作用)ことによってできた付加体からなる岩石で構成されています。
 一方、熊野層群は、付加体と元の陸地の間にくぼみができ、そこに陸源性の堆積物が溜まっ
てできており、堆積岩が中心の岩石です。また、熊野酸性岩類は、紀伊半島南部に存在した
巨大火山の元となったマグマに由来する火成岩体で、熊野層群には鉱脈鉱床が多く見られ、
鉱石鉱物としては黄銅鉱、黄鉄鉱が主で、他に閃亜鉛鉱、方鉛鉱、自然金、輝銀鉱があり、
石英や方解石、蛍石などに伴って産出します。そのため奈良時代以前から、銅や金銀の鉱山
として採掘が行われていました。

  <図1>
(2)紀和鉱山資料館での体験学習

(2)−1 河原の砂のパンニング

 パンニングとは、水中で比重の大きい鉱物を選別する方法で、砂金などの採集に用いられ
ます。今回は川砂中のガーネットや黄鉄鉱などの鉱物を分離することができました。図2の
ようにパンニング皿に砂を入れ水中で円を描くように回すことにより、比重の小さい砂粒を
外に落としていき、そうすると中心には比重の重い鉱物が残ります。このようにして砂粒を
選別することができます。今回使ったパンニング皿は理科用品として販売しているため、購
入することができますが高価なので、100円均一の大きめのプラスチック皿や調理用の深い
お玉でも代用することができます。また、学校で川砂の採取が難しい場合には、ホームセン
ターで売っている真砂土や校庭の砂でも行うことができます。この場合、あらかじめふるい
を使って粒径をそろえ、水洗いで細かな砂粒を取り除いておくと行いやすくなります。ガー
ネットが入っている真砂土は少ないため、分離できるのは、大きめの石英や磁鉄鉱です。

  <図2>
(2)−2 鉱物の採取体験

 資料館の外の空き地には鉱山から提供された捨て石置き場があり、その捨て石をハンマー
で叩くと中から黄銅鉱や黄鉄鉱などの鉱物を見つけることができます。この捨て石の表面は
風化によって色が変わっており、外側から見ても中にこれらの鉱物があるかどうかはわから
ないため、手当たり次第に割っていく必要があります。運が良ければ図3のような黄銅鉱を
採取することができたりします。暗い時間にブラックライトを当てることによって、蛍石を
見つけることもできます。

  <図3>
(3)紀州鉱山の歴史

 紀和地区の鉱山の歴史は古く、1200年以上も昔の奈良時代から始まります。
 奈良時代には鉱山で採れた銅を奈良の大仏建設のために供出していました。また、南北朝
時代は紀和町でとれた金銀銅は南朝の軍資金であったとも言われています。
 元来、紀和地区では小規模鉱山が多く存在し、採掘が行われていましたが、石原産業株式
会社がこれらを買収し、大規模な掘削を行いました。鉱山全盛期には「金の屏風の中を掘り
進めているようだ」という記録があるように、黄銅鉱脈が大きく、年間3000トンを超える産
出量を誇る、国内屈指の鉱山となりました。昭和53年に閉山されましたが、坑排水処理等の
ため、閉山管理業務が行われています。また、鉱山の跡地は、坑道で利用されていたトロッ
コが観光用として運行されているなど、観光地として利用されています。また、温度が一定
であることから、一部坑道ではキノコの栽培も行われています。

(4)板屋鉱石選鉱場跡

  図4の選鉱場では、鉱山から運び出された鉱石の粉砕および、選別が行われていました。
この選鉱場では図4の左側の斜面にある線路を使って、坑道から運び出した鉱石を一番上ま
で運び、手選 → 粗粉砕 → 重液選鉱 → 磨鉱 → 浮遊選鉱 → 脱水 の順に鉱石を下に送り
ながら選鉱を行なっていました。この選別により、元の鉱石中に含まれている約1.2%のCuを、
約26%の品位にまで高めて出荷していました。銅の元となる黄銅鉱(CuFeS2)中のCuの割合
が約34.6%であることを考えると、高精度で黄銅鉱の選別が行われていたことがわかります。

  <図4>
(5)紀州鉱山の坑道跡に見られるもの

 石原鉱産株式会社紀州事業所のご協力のもと、鉱山内の見学を行いました。図5のように、
隧道と呼ばれる運搬用のトンネルがあり、線路が2本引かれている広さです。そこから鉱脈
に沿って細い、坑道が延びており、今回は2本の坑道に入ることができます。坑道では現在
も湧き出る鉱山廃水の処理が行われています。そのため保守点検用のライトがありますが、
薄暗く、ライトを持参して足下を照らしながら歩く必要があります。高さは大人が立って歩
けるところが多いものの、途中、屈む必要がある場所もあります。坑道は鉱脈に沿って掘ら
れており、水平なものと垂直に掘られているものとが存在します。坑道の壁には黄銅鉱など
の鉱物の他、図6の様なCu2+の色をした石膏CuSO2や、白い針状結晶もみることができます。
また坑道内にはFe2+をFe3+へ酸化してエネルギーを得る、鉄バクテリアの存在も確認されて
います。

  <図5>
  <図6>